電波堂劇場には、様々な人生ドラマがあります。
小説にしたら? と言われることもあるので、味わい深いと感じているのは、どうやら私だけではないようです。
グランドピアノの音色と一緒に聴かせてもらってきた、様々なピアノ好きさんの人生について、これから少しずつお届けさせて下さい。
きっと、誰かの元気の力になってくれると思うから。
いいえ、何より私自身が元気をもらったから。
あした、転機になぁれ!
新しい自分の人生のためのピアノ~介護の卒業
「実は、介護を卒業しました。今度は自分のための人生を考えたいと思った時に、久しぶりにピアノが弾きたくなって……ここに来ました」
これまでに、何人か「介護の卒業」がきっかけでピアノを始めたいという方が来て下さいました。
私自身、3年ほど前に11年一緒に暮らした祖母を看取った経験があります。
きっと、いつも「だれか」を中心にした時間が多かったはず。
そして見送ってからも、しばらくせわしい日々が過ぎていきます。
そろそろ黒ではない色が恋しくなる頃、ふと「これから」のことを考えなくちゃとハッしました。
祖母の看取りの半年間。
私は、祖母の家に泊まり込んで、いつでも飛び起きて吸引でも救急の付き添いでも対応できるように、ギリギリ出かけられる恰好で眠っていました。
私が眠る頭の上には、お仏壇(笑)。
右側には、私が子どものころに買ってもらったアップライトピアノがありました。
でも、とにかく目まぐるしい日々の中、ピアノを弾くどころか眠る時間もよくて4時間という生活。
それでも、ほんの2~3回だけ、祖母のためにピアノを弾くことができました。
祖母が大好きだった「えんどうの花」や、童謡・唱歌を中心に。
あと、クラシックも弾いてみたのですが……「もっと練習がんばりなさい」と言われてしまいました(笑)。
介護の時期は、ピアノも「祖母のために」曲を選び弾いていました。
だから、介護を卒業した時、ふと立ち止まってしまう気持ちは本当によくわかります。
「私」を中心に考えることを休んでいたので、戸惑ってしまうのです。
何が食べたい?
どこに行きたい?
何を着たい?
何をしたい?
そんなこと聞かれても、すぐに答えが浮かびませんでした。
電波堂劇場に来て下さる方はきっと、そこでふと……「わたし、ピアノ、久しぶりに弾きたいな」と思った人。
やっと浮かんだ「小さな自分のリクエスト」。
新しい人生を歩き出すために、その気持ちをもって虹の階段を上がって来てくれたのでした。
コンクールのような「賞」を目指したいわけでは、もちろんないのです。
ただ、自分への「ねぎらい」と「生きる心強さ」のようなものがあれば。
そんな気持ちなのではと、私は感じています。
「誰のためでもなく、まずはとにかく、自分のためだけにゆっくりピアノを弾いて下さいね」
心の中でそうお伝えして、あとはピアノに任せます。
電波堂劇場のピアノは、だれかのために頑張ってきたやさしいピアノ好きさんを、そっと癒してくれると信じて。
あした、転機になぁれ!
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